活動の目的
近世の在方(ざいかた)大工集団として大きな足跡を残したにもかかわらず、塩飽水軍に比べて知名度が低く研究の余地が残されている塩飽大工について、その建造物、系譜、特徴等をできる限り広範囲、深深度、かつ高密度で調査研究し、貴重な文化を後世に継承するだけでなく、新たな文化誕生の萌芽となることを予期し、歴史ある塩飽に住み続けることへの誇りを高めることを目的とする。
活動の経過
研究は3年計画の第2年次にあたり、最優先事項は塩飽大工の建造物一覧をまとめ、現存する全ての建造物を写真に収めることである。ほぼ当初の活動計画通りに実行し、地道かつ着実にデータを蓄積した。
活動の延回数は138回、延人数は191人、延時間は1,046時間に達し、相当な量のエネルギーを注いだ。調査の出動には旅費等の出費を伴うため、福武財団の助成金は私たちの研究成果に直結するありがたいものだった。
1 塩飽大工の建造物調査
第1年次に引き続き、最重点事項は建造物一覧表の量と質の向上である。数は次の通り増加した。
( 昨年度) → (今年度累計)
建造物数 335 492
うち現存建造物数 84 143
この数は、棟札、墨書、古文書等により証があるものであり、口伝の類は含まない。先輩研究者の著書や論文、市町村史や郷土史等の記述も再検証を行っており、数多くの修正点を発見している。
2 塩飽大工の名前調査
建造物調査に比較すると未だ調査範囲が限定的である。建造物の調査が進むほど大工の系譜に関する疑問点が増加蓄積されている。棟札等に名前を残している棟梁格の人数は次の通り増加した。
( 昨年度) → ( 今年度累計)
大工人数 457 476
従来より知られている橘家、大江家、都築家、山下家等に、民部家、山本家等を追加しなければならない。ただし、追加分の系譜の研究は次年度に持ち越した。
3 塩飽大工展
2013年10月5日から30日まで、瀬戸内国際芸術祭2013秋の会場となった本島(丸亀市本島町笠島)で、芸術祭に協賛する島びとの活動として、塩飽大工のパネル展を開催した。また11月2日と3日は、塩飽本島合同文化祭の特別展示として、塩飽大工展を開催した。入場者数は次の通り。
塩飽大工パネル展 3248 名
塩飽大工展 160 名
4 丸亀郷土史クラブにて講演
2014年3月8日、丸亀市文化財保護協会長の要請を受けて講演した。参加者数は約30 名。
5 中間報告書作成
「郷土の誇り 塩飽大工」と題した40ページの中間報告書冊子を2013 年11月2日に発行した。
6 収集データ
時間をかけた地道な調査の結果、データ量は次のように確実に増加している。
( 昨年度) → (今年度)
収集資料 303 点(22GB) 435(37GB)
写真枚数 5800 枚 12440 枚
活動の成果
1 塩飽大工の建造物
出動すれば必ず何かの成果が得られ、手ごたえが大きく充実感をもたらした。
【今年度新発見、再発見の現存建造物】
①本願寺塩屋別院大門 丸亀市 嘉永7 年(1854 年)
彫工北山の刻銘発見により特定
②葦守八幡宮 岡山市 明治3 年(1870 年)
棟梁民部虎治郎の棟札発見により特定
③山中八幡宮 井原市 明治16 年(1883年)
大工民部虎治郎、彫工民部孫三と特定
④浄福寺本堂 高梁市 天保4 年(1833 年)
大規模建築が原型を維持しており貴重
⑤大通寺 矢掛町 宝永3 年(1706 年)
本堂、開山堂が現存
⑥箆取神社絵馬殿 倉敷市 明治17年(1884年)
大規模な絵馬殿を棟札写により特定
【代表的な現存建造物( 調査は過年度)】
①備中国分寺五重塔 総社市 弘化元年(1844 年)
②善通寺五重塔 善通寺市 明治35年(1902年)
③吉備津神社拝殿 岡山市 宝暦4 年(1754 年)
④金刀比羅宮旭社 琴平町 天保8 年(1837 年)
⑤西大寺本堂 岡山市 文久3 年(1863 年)
2 塩飽大工の名前
先輩研究者の成果物等によって、橘、大江、山下(本島)、山下(仁尾)、山下(三野)、綾、都築といった家々の系譜が洗い出されている。
これに私たちは、藤井、松成、大倉、長尾、大石、妹尾、山本、櫃本、西原、眞木、信原といった家系を加えた。
3 塩飽大工の絵様(工法や様式の特徴)
工法に関する塩飽大工の特徴については特定に至っていない。特徴を主張しなかった可能性もある。つまり塩飽大工は、施主の予算、意向、都合等の求めに応じて、あらゆる工法に対応できる技術力を持っていたという解釈である。彫刻については、次のような特徴を把握しつつある。
・豪放磊落
・写実的で動き出しそうな躍動感
活動の課題
1 2014年度は、3年計画の最終年度を迎えるので、一区切りつけることができたと自負できる完成度の報告書を作成したい。
2 特に研究を深めなければならない領域は、塩飽大工の系譜と絵様である。
3 研究を進めるほど新たな謎が出現している。考察を深めて結論を導きたい。