瀬戸内海地域振興助成成果報告アーカイブ

住民参加の集落景観保全のため、瀬戸内海の離島集落における空き家の実態と保有者の意識の研究

architects atelier ryo abe 安部 良

実施期間

活動の目的

瀬戸内海の島々は島民の高齢化に伴って家屋の空き家化、廃屋化が進みつつあり伝統的な集落の景観が失われようとしている。特に瀬戸内国際芸術祭周辺の島々では、芸術祭を転機に他の島々以上に大きな変化が起こりはじめている。そうした状況で空き家を保存活用しながら島の活性化を図ることが有効であると考えられるが、離島では、実際に活用が可能な状態の空き家はかぎられており、また空き家を他人に貸すことに積極的ではない保有者も多い。本研究は、伝統的な住居と路地空間などで構成される集落空間を、「生きている」景観として受け継いでゆくための住民参加による景観保全方法を模索するために、特に男木島に焦点を当て、空き家の実態と保有者の意識を明らかにし、集落景観保全計画の立案、島の未来像づくり活動へと繋いでゆくものである。

活動の経過

2010年には男木島での集落景観の基礎的な実測調査、聞き取り調査による各家の家族構成、空き家、廃屋、空き地の確認、島の歴史的背景の聞き取り調査等を行った。2011年以降は定期的に男木島島民を対象とした報告会を開催して、男木島の魅力の要因が集落景観にあり、空き家の保全が重要な課題であることを伝えた。2013年度の当初計画では全空き家保有者の連絡先をリスト化し、アンケートによる空き家活用に対する意識調査を行い、男木島コミュニティー協議会と情報を共有しながら、島民と島外在住保有者との情報共有や空き家管理のネットワークを構築することであったが、同じタイミングで高松市による空き家バンク登録のための空き家調査がコミュニティー協議会に委託されたため、個人情報保護という理由で、空き家所有者への直接的な連絡や、連絡先を調べる作業自体を自粛することとなった。代わりに空き家のオーナーと親交のある島民から連絡をしてもらい、承諾のとれた空き家から実測調査をすすめ、最終的に23軒の(島内の空き家全体の1/3程度)の実測調査を完了した。また調査期間中に、島民と島外からの参加者で、島の魅力や未来像、空き家の保全方法や島の活性化について語り合う「島おこし座談会」を2 回開催した。

活動の成果

これまでの調査の結果、他の島と比べて男木島は特に固有性が際立っており、希少性のある「生きている」文化遺産(リビングヘリテージ)として保全する価値があると考える。そのためには、空き家を保全活用しながら、島の産業を活性化し、新しい入居者の住環境を整備するための計画案づくりが必要であると考えられる。
1 空き家の実態
空き家の実測調査を通して、家の特徴や状態を把握することで、それらをいくつかの分類に特定することができた。
a 集落景観にとって重要で積極的に保存すべき空き家
b 伝統的な中庭形式など男木らしさを持った空き家
c 伝統的な形式ではないが活用しやすい特徴的な空き家
2 男木島集落景観保全のゾーニング
集落の主要な範囲を調査対象区域として、土地の利用状況を把握し、空き家の実態を地形や集落形成の歴史と照らし合わすことで、集落の内部を4つのゾーンに区分することができた。
・まちなみ再生ゾーン
玉姫神社の北側、廃屋や空き地が目立つゾーン。集落景観に重要な廃屋や空き家も点在する。
敷地33 在住9  作品4 空き家10 廃屋7 空き地3
・まちなみ保存修復ゾーン
集落の中心部。状態の良好な空き家が多く、ほとんどの家屋が男木島らしい中庭式である。
敷地110  在住51  作品2 空き家41  廃屋4  空き地12
・活性化ゾーン
集落西側の土地の平坦なゾーンや南側斜面のゾーン。伝統的な中庭式の家屋は少なく、更地や農地が目立つ。
敷地58  在住28  作品0 空き家23  廃屋1  空き地7
・パブリックゾーン
比較的近年に埋め立てされたゾーン。学校、港、および島に必要な公共機能を新たに設計する。
3 男木島集落の土地利状況
上記の累計により男木島集落の土地利用状況は以下のようになる。
敷地202  在住88 作品6  空き家74 廃屋12 空き地 22
前回作成をした土地利用図を更新し、それをもとに空き家の所在と1、2の関係を示す図を作成した。(図1参照)
4 空き家保有者の意識と島民の意識
調査承諾のとれた空き家は生活道具や衣服が残ったままであるものの、どの部屋もほぼ片付いていた。逆に調査の協力を断られる場合、その主な理由は家の中が片付いていないからということであった。
手入れの行き届いた空き家では、将来的にも貸す気持ちはないという意向が多く、逆に大きな補修が必要そうな空き家では、活用計画がある場合は積極的に使ってほしいという意向が多いという傾向であった。保有者に貸す意識がある空き家の中で、すぐに活用が可能、または、ちょっとした手入れで入居可能な物件は数少なく、芸術祭に参加したアーティストたち等、島民からの信頼があり、また自分たちで家屋の補修もできる場合は家を借りて島に移住できるが、家を補修する技術や財力のない入居希望者はなかなか家が借りられないという状況である。
空き家保有者への連絡を、島に在住する人達に依頼しながら進めることで、島民たちの意識変化を知ることができた。集落景観における空き家の重要性が認識されるにつれて、調査に対する自発的な協力が増え、さらに居住中の自宅の調査への申し出や、近い将来、自宅が空き家になる際に活用をして欲しいという要望も現れた。特に島の女性達のネットワークが調査の推進力となった。
5 島おこし座談会
一昨年、昨年の研究報告会を引き継ぐ形で、「島おこし座談会」を男木島コミュニティーセンターで開催した。
・第1 回 9 月7 日 出席者島内14 名 島外15 名
出席者全員に男木島の魅力や生活の問題について語ってもらった。路地の面白さ、自然の美しさなど景観の魅力への意見と共に、人の魅力、島民と観光客の交流の楽しさへの意見が多く聞かれた。また島の景観の魅力の要因である路地や地形は生活の不便さの要因にもなっているという意見もあった。
・第2 回 11 月23 日 出席者島内10 名 島外16 名
出席者全員に男木島の未来像について語ってもらった。目指すべき生活像や集落の規模について、I ターンU ターン者の職を生み出す方法、空き家の活用方法、海外の事例など多岐に渡る意見が出された。島外から積極的な意見が出る反面、島民の出席者数は少なく発言も控えめであった。

活動の課題

1 研究から活動へ
これまでの研究を継続し、研究を礎にした集落景観保全および島の活性化活動へと展開をしてゆきたい。
2 景観の保全計画の提案
景観保全の指針となる男木島マスタープランを制作し、高松市などの行政機関に景観保全計画の提案をしてゆくと同時に、そのための基礎づくりとして男木島島内では以下のような活動の展開をしてゆきたい。
・「集落景観の価値付け、修理修景方法づくり」
・「地元学に基づいた地図作り」 
・「島民と入島者と島外家族を繋ぐイベントづくり」
・「島民たちのアルバム写真などを活用した島史づくり」

■共同研究者  九州大学 准教授 谷正和