活動の目的
海浜性甲虫であるルイスハンミョウは、生息地である海浜を開発などで失い、個体数が減少し、絶滅危惧種に指定されている。徳島県では、生息地を埋め立てる代償措置として海浜を創出したが、2010年をピークに個体数が減少し続けており(徳島県 2013)、その要因が明らかになっていない。ルイスハンミョウの生態については解明されていない事柄が多く、保全対策が進んでいない。そこで、ルイスハンミョウの生息環境を明らかにし、人工海浜のルイスハンミョウ保全対策に応用することを目的として、瀬戸内海で生息が確認されている広島県と徳島県において調査を行った。
活動の経過
ルイスハンミョウの成虫は,海浜部を移動しながら小さな昆虫を捕食する高次捕食者である(佐藤 2008)。ルイスハンミョウの幼虫は海浜に巣穴をつくり、周囲を徘徊する生物を待ち伏せて捕食する(中村他 2004)。従って、幼虫の移動能力は比較的小さく、生息環境に対する依存度が高いと考えられる。そこで、本年度は幼虫の生息環境の解明を目的として、生息が確認された海浜の粒度組成や傾斜、生息標高や範囲、生息密度を調査した。広島県での調査は、若齢の幼虫が観察できる夏と終齢の幼虫が多く観察できる秋に行った。徳島での調査は、冬眠から覚めた4月~冬眠する10月下旬まで行った。
活動の成果
本研究の個体数調査や成長調査により、春先~晩秋までが成虫・幼虫ともにルイスハンミョウの活動期であり、1年に春繁殖世代と夏繁殖世代の2世代発生する多化性種の生活史を持つと推定された。ルイスハンミョウは卵~羽化まで土壌中で生活する。従って、ルイスハンミョウは一年のほとんどの時期に土壌中に存在していることになる。
ルイスハンミョウが減少した地域における産卵時期の地盤変化を見てみると、標高の増減が確認され、地盤が変動していた。一方、継続的に生息が確認できる地域では産卵時期の地盤変動は小さかったことから、土壌の安定性がルイスハンミョウの個体数の増減に大きな影響を持っていると考えられる。そこで、徳島における過去のデータを解析したところ、成虫個体数と1年間幼虫の生息適地であり続けた面積との間に正の関係性が認められた。
粒度組成や地盤硬度については、生息可能な幅が広く、ルイスハンミョウが減少した地域と生息し続けている地域との間に明確な差は見られなかった。
幼虫の生息標高は地域によって異なり、その生息幅も異なっていた。標高別干出時間割合と幼虫の生息標高幅を比べると、潮位変動幅が小さい(干出時間割合の傾きが急)徳島では生息標高幅が狭く、潮位変動幅が大きい(傾きが緩やか)広島では生息標高幅が広かったことから、干出時間が幼虫の生息標高に影響を与えていると考えられた。本研究から、ルイスハンミョウの保全には、幼虫が生息可能な標高における広い面積の確保と土壌の安定が重要であると考えられた。そこで、ルイスハンミョウ保全を目的とした人工海浜創出事業者に対し、ルイスハンミョウの保全対策を提案することができた。
活動の課題
本研究で得られた、干出時間と幼虫の生息標高の関係について、今後もさらに研究を進めることによって、ルイスハンミョウの生態解明につながると考えている。一方、本種の成虫に関する生態情報も少ない。そこで、生殖行動や移動範囲、悪天候時の避難行動などの調査と共に、個体群間の交流も調査し、絶滅回避につなげたいと考えている。