瀬戸内海地域振興助成成果報告アーカイブ

SNS 上の書き込み内容を題材にみる来訪者と島民の直島に対するまなざしに関する研究

香川大学 経済学部 金 徳謙

実施期間

活動の目的

近年、多くの人が観光行動の前や観光中にも、関連する情報を収集したり、提供したりを繰り返している。また、観光地の住民も情報の提供をしている。だれでも自由に書き込み(質問やそれに対する返信など)ができる、いわゆる、Social Network Service(以下、SNSと記す)がある。このようなSNSの利用が拡大していく中、観光分野においてもSNSに書き込まれる大量の自由記述文を分析しようとする試みが増えている。その理由は、観光者の関心分野や地域住民とのまなざしの相違を明らかにすることを含め、応用分野は多岐にわたることにある。しかし、観光分野において、この類の研究の蓄積は少なく、抜井(2010 および2012)がみられる程度である。 そこで本稿では、直島を事例にSNSに書き込まれた大量の自由記述文をとりあげ、観光者の類型化および観光者と住民における認識の相違を明らかにすることを目的に、テキストマイニング手法を用いて分析を進めていく。

活動の経過

・調査対象の選定研究では直島をとりあげ、日本最大のSNSサイト「mixi」に書き込まれた内容を分析する。その中に開設されている直島に関するコミュニティの中のトピック、「直島ッこがおしえます」を対象に、トピック開設以来の書き込みのすべてを分析の対象に選定する。その理由は、一つ目に、49ある直島に関連するコミュニティのうち、コミュニティ開設日が2004 年7月1日ともっとも古く、メンバー数が38,163 人ともっとも多いこと。二つ目に、コミュニティ開設日にトピックが開設されたことと、書き込み数が多く、他のトピックに比べて観光者と直島の住民、双方の書き込みが多いことである。
・トピック「直島ッこがおしえます」
本トピックは訪問経験がある人々および島民が提供するトピックで、観光者と島民が交流するサイトである。内容は直島に関する質問やそれに対する返答、意見や経験などの感想等々、多様な書き込みが見られ、今回の調査では分析に利用できない書き込みを取り除いた924件が得られた。そのすべてを観光者と島民、書き込み者別に分類した結果、観光者が多く91.76%、島民はわずか8.24%となり、観光者の島への関心の高さが確認できた。書き込み件数は観光者が多かった一方、全体への占有率は、島民が29.24%に至り、積極的に書き込みを行っていたことが分かった。平均書き込み件数は、観光者1.85件に対し、島民8.54件であった。また、島民の書き込み件数の分散値が非常に大きく、一部の積極的な人による書き込みがあることが分かった。もっとも多く書き込みを行った島民の場合、116件の書き込みを行った。

活動の成果

・全カテゴリー
「mixi」に書き込まれた924 件の内容を分析し、32 のカテゴリーの抽出ができた。もっとも書き込みが多いカテゴリーは「島」で46.65%にのぼり、全書き込みの半数近くから確認できた。その理由として、第一に、瀬戸芸の主な会場が島嶼部であったことが影響したこと、第二に、今回の調査対象が直島であったため、「直島」ということばが多用されたことが考えられる。その他、島、関心、感謝のような全体のイメージに関連するカテゴリーが、20%を超える書き込みから確認でき、上位を占めていることが分かる。他方で、具体的な内容を示すカテゴリーは20%を下回り、宿泊、美術館、家プロジェクトなどが続いた。また、アクセスに関する書き込みも10%を上回っており、自分の意志で自由にアクセスできる陸地の観光地とは異なる傾向がみられた。つまり、島嶼観光地がもつアクセスの制約が確認された結果となった。
・「宿泊」・「日帰り」
訪れる観光者の類型区分に宿泊が考えられ、抽出された「宿泊」と「日帰り」のカテゴリーを比較した。前者は島や良いなど、島全体のイメージ形成にかかわるカテゴリーへの書き込みが多く62.5%をマークし、島を楽しもうとする傾向が読み取れた。他方で、後者は関心分野が広く、多様な情報を収集しようとする傾向が読み取れた。また、前者は全カテゴリに書き込みがあったのに対して、後者は気候、銭湯、地元、ゴミ箱のカテゴリーへの書き込みは確認できず、「宿泊」への書き込み者が島民との交流にも積極的といえ、言い換えれば、「日帰り」への書き込み者は時間の制約上、効率よく観光スポットを回遊するための情報収集に積極的であったといえる。
・「ベネッセ」・「家プロジェクト」
主な観光対象である「ベネッセ」と「家プロジェクト」のカテゴリーを比較した。前者の場合、島全般、宿泊、家プロジェクトの順に上位3位となった。また、書き込み内容の分析から、ベネッセハウスでの宿泊者が多く、宿泊者向けのシャトルバスサービスを利用するため、島内移動手段に関する書き込みが少なかったと推測できる。他方で、後者の場合、直島の代表的な観光スポットである美術館が最上位をマークした。それに対して、宿泊も4位で、23.29%と前者の半分程度となっていた。また、島内での移動手段に関する書き込みが多く17.12%にのぼり、前者の7.14%の2 倍を超えた。2カテゴリーを比較した結果、後者は高松港や宇野港を利用した日帰りの観光者が多く、時間の制約から島内における効率的な観光行動のための情報収集のための書き込みが多いことが分かった。
・交流に関わるカテゴリ
近年の観光形態は、観光スポットを回るだけの形態から地元民との交流を楽しむ形態にシフトする傾向がみられ、新たな観光形態の一つとして注目されている。そこで、交流に関係する「銭湯」、「地元」、「住民」をとりあげ、書き込み内容を分析した。3カテゴリーともに書き込み件数は少なく、とくに「住民」や「地元」は、全カテゴリーの中、最下位をマークした。観光者と地元民との交流が注目されているが、多くの観光者の行動から確認できるまでには至らなかった。
・まとめ
カテゴリーでみる観光者の類型の分析の結果から、一つ目に、直島に宿泊し、島全体のイメージに関する書き込みを多くし、また、ベネッセの美術館に興味をもっている観光者は、地元民との交流を積極的に望む傾向があると考えられる交流志向型、二つ目に、直島には日帰りで訪れ、観光スポットに対する具体的な書き込みを積極的に行い、また、本村地区の町並みを中心とする家プロジェクトに興味をもっている観光者は、短時間で島内の観光スポットを回ろうとする傾向が強いため、地元民との交流までには至らなかった観光志向型のタイプに区分することができる。また、今回の分析では観光者と地域住民における書き込み件数の偏りが激しく、一部の積極的な人による書き込みとなっていることも確認できた。

活動の課題

本研究では、日本最大手SNSサイト「mixi」に書き込まれた大量の自由記述データを分析することで、観光者の特徴を明らかにすることができた。また、観光者と島民の間における認識の相違を明らかにすることを試みたが、残念ながらデータの偏りが激しく、統計学的に有意義な結論を得るまでには至らなかった。今後の研究課題にしたい。