活動の目的
調査活動により紹介した表現者は、フジテレビ「アウト×デラックス」などのテレビ番組をはじめ、書籍「アウトサイドで生きている」や雑誌など多くのメディアで紹介していただくことができた。
活動の内容
北海道から沖縄、そして韓国まで各地で表現活動を続ける人たちの実態調査を行った。自宅やアトリエを訪問し、作者へのインタビューや制作物の撮影・記録を実施。そうした成果を展覧会や執筆、ツアーなどで公開した。
①展覧会
・『性欲スクランブル』展 2017年4月30日(土)から10月9日(月祝)/性欲をテーマにした4名のグループ展
・太久磨個展『自画像としての植物』展2018年1月20日(土)から4月2日(月)/香川県在住・太久磨の初個展
②執筆(美術手帖・キャプスチャンネル・書籍「アウトサイドで生きている」等)
③現場訪問ツアー
表現者の元を参加者と訪問し、創作や生き様に関するインタビューを行うツアーを9回開催した。
実施場所:クシノテラスおよび地域社会
参加作家、参加人数
①展覧会
『性欲スクランブル』
【参加作家】向井東冥、松崎覚、半田和夫、城田貞夫
太久磨個展『自画像としての植物』
【参加作家】太久磨
②主なツアー訪問先
神奈川/生亀光明、小林伸一
東京/菅野武志、松崎覚、長谷川芳隆、景山八郎、首くくり栲象、辻修平、岡啓輔
埼玉/八潮秘宝館、小林一緒、飯島純子
広島/藤本正人
他機関との連携
ツアーは有志からなる任意団体と共同企画し、バスツアーについては、富士急トラベル株式会社と共に企画開催した。
活動の効果
「アール・ブリュット」は世間一般では未だ「障害者のアート」として誤認されており、障害がない地域在住者たちの表現はほとんど認知されていない状況にある。そこで、そうした表現者たちの実態調査を実施。展覧会や書籍出版などを通じて広く公開可能な状態にし、真の意味での多様性社会の貢献に寄与することを目的とした。
活動の独自性
近年「珍スポット」と呼ばれる一風変わった観光地などを訪問することに注目が集まっているが、残念ながらそこに作者の息吹を感じとることはできない。一方、参加者とともに表現者の自宅やアトリエを訪問するツアー「アウトサイドの現場訪問」は、作者との対話を通じて、美術館では味わうことのできない生々しいリアリティーを体現できる場として機能した。加えて、美術館の外、つまり作者の自宅やアトリエで作品と出会うという行為は、美術鑑賞における新しい価値観を育む契機にもなっている。さらに、制作当事者にとっては、そうした体験が生きがいや制作意欲の向上に繋がっている。
総括
1年を通じて50カ所以上を訪問し、多くの地域在住の表現者の方と出会うことができた。韓国にも渡航し取材の機会を得たが、優れた芸術性を持ちながら、いまだ正当な評価を得ることのできていない表現者が、国内外には多く存在していることを体感した。なかには作者がすでに他界し作品が撤去された事例もあり、作者の中には高齢の方も多いことから、今後ますます早急な実態調査の必要性を感じている。そうした表現者の中には、路上生活者やLGBT、そして障害者の方など多様な環境に置かれた人たちも含まれており、既存の「障害者のアート」や日本の「アール・ブリュット」という枠では回収できない幅広い表現を目にすることができた。これまで、このような調査事業の多くは公開されず情報が共有されないことも多かったが、本事業ではメディアやウェブサイトに広く公開することで、誰でもアクセス可能な状態とした。加えて、本事業における成果物として、今夏には書籍の刊行も予定しており、今後も多様性社会の実現に向けて邁進していきたい。