アートによる地域振興助成成果報告アーカイブ

《ORGANIZING ABANDON》 はじまりの廃墟

AIR Onomichi実行委員会

実施期間
2017年4月1日~2018年3月31日

活動の目的

人知れず消滅する廃墟の存在に注目し、創造的に再生するプロジェクトがシュシ・スライマンの《ORGANIZING ABANDON》である。美術家のヴィジョンを起点にさまざまな領域を横断・結合し、地域に根ざしつつ国際的広がりを持つ継続的活動を実践することが本企画の目的である。成果物としての建物は文化的・民族的ルーツを考察する重要な証となる。

活動の内容

アーティストの職人アシスタントの招聘:マレーシアより美術家シュシ・スライマン、職人アハマド・ミンハッドおよびアシスタントを招聘。制作・ワークショップを展開。
異文化交流・国際交流:専門家(美術評論家、作家、大工、陶芸家など)を講師に実践と理論によるワークショップ・交流会開催(ワークショップ8回、交流会3回開催)。マレーシアも訪問し、現地の伝統建築のリサーチ、アーティスト・陶芸家のスタジオ訪問も行った。
アーカイブルームの構築:アーティスト杉井隼人、もうひとりを中心にアーカイブルームを光明寺會舘2階に設置。
展覧会による公開:芸術祭「十字路ONOMICHI ART CROSSROADS」で光明寺會舘のアーカイブルームと廃墟の公開を行った。
実施場所:尾道旧市街斜面地(東土堂町、西土堂町など)

参加作家、参加人数

シュシ・スライマン、もうひとり(小野環、三上清仁)、イジャット・アリフ、中曽智子、アハマド・ミンハッド、新田悟朗、尾上貴規、渡邉義孝、豊田訓嘉、大石雅之、杉井隼人、ロザンナ・ムサ、元山悠佑、亀井那津子
参加人数:各会場来場者数総数 延べ2,500人、作家制作補助学生アシスタント50人、その他地域住民の方々

他機関との連携

尾道市立大学、NPO法人 尾道空き家再生プロジェクト、ART BASE MOMOSHIMA

活動の効果

国・時代・領域を横断する知恵の共有 ワークショップ・意見交換を通じ、国籍を越え、現在のものだけではない伝統的職人技術や異分野の専門家の知見を参加者と共有し、対話することができた。
場の記憶の可視化 廃墟を構成する要素や発掘物を並べるアーカイブルームを構築し、公開することで、廃墟を構成してきたものの繊細な表情の一つひとつとその全体像を可視化し、一般オーディエンスにも提示することができた。

活動の独自性

「廃棄の禁止」 廃屋に属するものは何も捨てないという、通常のリノベーションや作品制作では稀有な条件を設定。この困難な条件により、廃棄物の再活用に関するチャレンジが起動し、さまざまな専門家の知恵が必要となる。
長期プロジェクトであること 単年度や短期間の成果提示型企画が多い中、本企画はプロセスに重心を置く。リノベーション、ワークショップを挟みつつ、再生方法について丁寧な考察を必要とするため、非常に時間のかかる企画となっている。
マレーシアの伝統的建築部材と日本建築との統合 マレーシアの伝統的な建築様式のバルコニーを廃屋にジョイントする。建物全体が両国の文化的・民族的ルーツの近似性に関するエビデンスとなる。

総括

プロジェクト《ORGANIZING ABANDON》では、2013年より廃屋の創造的再生を軸に、マレーシアの伝統的文化と日本のルーツの一つである縄文文化等のリサーチも並行して行っている。その過程で、さまざまな領域の職人・工芸家・アーティスト・研究者が参加するプラットフォームを構築し、一般参加者もその知恵や技術をワークショップ・レクチャーで共有できる形にしている。本年度は廃土を再生し、陶芸制作を行うワークショップを継続したほか、伝統工法での瓦葺き、構造補強を職人とともに重点的に取り組んだ。また、光明寺會舘にアーカイブルームを創り上げたのも大きな進展であった。これは廃材利用の什器で成り立ち、アーティストやスタッフのさまざまな創意工夫で完成したものである。プロジェクト全体像に対する明確な視点を具現化している場所となった。また、相互交流も活発化した。尾道側のスタッフもマレーシアを訪れたほか、マレーシアで木部部材が完成し、設置にあたりマレーシアの大工が実測しに尾道の現場を訪れ、今後の計画・作業に関するイメージの共有を図ることができた。この長期的プロジェクトの一連の流れの中、2017年度の活動が一つの重要な展開点になったことは間違いない。

  • 瓦葺きワークショップ 瓦職人を講師に、伝統的土葺工法で古い瓦を葺く

  • シュシ・スライマン アーカイブルーム

  • 職人との交流 現場における実測とマレーシア部材の設置準備