活動の目的
「吉原」は文化的に稀有な特異点でありながら、現在は直接の関係を持たない人間にとっては介入しづらい地域である。
本事業には芸術をプラットフォームとし、たくさんの部外者が吉原に入り込む口実にする機能がある。それにより地域が活性化し、日本における地域アートプロジェクトの新しい在り方を切り拓く。
活動の内容
吉原地域と若手芸術家の関わりの中で、年間の大きなイベントとして「吉原芸術大サービスG.W.」を5月に開催した。ここでは「吉原神社・吉原弁財天」を中心に各所で多数の若手有望株が作品を発表し、美術鑑賞者(批評家含む)・地域住民双方の注目と客を集めた。中でもプログラムの目玉としての柴田剛監督による野外映画上映はおよそ200人を集客し、通りすがりの人も足を止めて観ていく印象的なものとなった。ここで出来た縁がその後の作家同士のコラボレーションとなる例も生まれた(参加作家ナカギンガのバンドのPVを柴田監督が作った)。地域のイベントへの参加や地域の方との交流も、実行委員会を中心に縁の出来た若者たちで継続している。
実施場所:東京都台東区千束3、4丁目周辺
参加作家、参加人数
作家は古典芸能や現代美術など幅広いジャンルから参加。前年度より継続参加の岸井大輔(劇作家)、さんざん(ふんどし舞踏演劇)、柳亭小痴楽(落語)他計14組、新たに奥村直樹(インスタレーション)、柴田剛(映画)、宝井琴梅(講釈)他計10組。3日間で2,021人の観客が訪れ、地域に賑わいをもたらした。
他機関との連携
前年度に引き続き地元町内会、地元青年部と密に連携を取りながら事業を実施した。また、今年度より新たに浅草防犯健全協力会からの協力を得ることができた。
活動の効果
一般の方々から「吉原」が「文化発信の場」として認知される。それが、1年に1度のペースで3年間続けて芸術祭を行うことにより着実に大きくなっている。直接地域の店に利益の形で反映されることは少ないが、「活気」という抽象的な言葉でしか表せないエネルギーは年々強くなっている。青年部の活動が活発化(イベントの開催や「吉原の狐舞」保存会の発足など)し、神社の収益は上がっている。
活動の独自性
この活動の原点には「吉原の吉原さん」という70歳の男がいる。荒廃した神社を自力で改修し、そこに若い芸術家を巻き込み、改修の象徴として壁画を完成させた人物だ。吉原さんは芸術家に仕事を与え、芸術家は技術で返す。芸術家に発表の場を与え、芸術家は作品によって「介入しづらい地域」に人を集めた。この経緯こそが本企画の根本的な独自性と言えよう。
そうして培われた吉原さんと我々の関係は並列であり、若者だけでは捉えきれない場所と時間と人の関係を70歳の視点によって補完している。
総括
本事業では縁を重んじて、過去の参加作家にも繰り返し参加してもらっている。吉原との関わりが始まって5年になるが、それが結実し、作家が自身の役割を再考し、状況を見て動くことができたように思う。つまり、それぞれが主体性を持ちつつイベント全体のバランスを考える、ということである。
例えば、演劇ユニットの「さんざん」は自身の演劇作品と落語、日本舞踊、講釈など他人の作品を一つのプログラムにまとめ『吉原演芸大サービス』として寄席のように鑑賞者にわかりやすい鑑賞方法と解釈を与えた。表現者が自らの作品を「演芸」と呼んでしまう柔軟さに驚かされた。
岸井大輔は前回と同様、吉原神社社殿で隆慶一朗の「吉原御免状」を輪読する作品を発表。来場者だけでなく何も知らない参拝者と交流を図りながら、それを作品に取り込んだ。
奥村直樹は初参加ながら細かなリサーチを重ね、本来撮影が難しい吉原でまちの写真を使ったインスタレーションを制作した。
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柴田剛監督『おそいひと』上映前のトークイベント
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柳亭小痴楽による落語公演。満員御礼
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集合写真。作家、スタッフ、地元の方々が集合