活動の目的
湖と田んぼが繋がる原初的風景の木崎湖に、パプア・ニューギニアの秘境探検を行った探検家の西丸震哉の記念館が建つことを契機に始まった原始感覚美術祭によって、生活や信仰、農業、経済、科学など分化できない生きることそのものを繋ぐ、新たな在り方の“文化”をつくることを目的とする。
活動の内容
今年は、祭りとは何かという原点に立ち返り、表現者が“祭り”を生み出すことをテーマに制作を行った。国内外の招聘作家が、互いに影響を受けながら、木崎湖畔に眠る土地の記憶を造形化するような作品制作を行った。今年から文化庁の事業として、レジデンスを行い、オープニングには、麻の貯蔵を行っていた麻倉ギャラリーで作家のプレゼンテーションを行い、広く市民に活動を紹介し、地元のやまびこ祭りの踊り連に参加し、親交を深めた。
木崎湖という地自体が語り出す、伝統となりうるような祭りを誕生させる水の「祭り生み」の試みとして、千年の森祭り、みのくち祭り、原始感覚セルフ祭り、海ノ口奉納舞、原始感覚祭り、イシカリノカなどさまざまな祭りを行った。
実施場所:長野県大町市
参加作家、参加人数
スペンサー・バイレス、ヴィム・シャーマー、リー・クーツィ、シン・ヨング、フランチェスカ・パパコーダ、平川渚、香川大介、杉原信幸、水川千春、気仙沼はるき、鈴木育郎、槇野文平、ハ・ジョンナム、ももカフェ、林迫山、茂木健一郎、中西晶大、Oki、小室知也、ナチョ・アリマニー、吉増剛造、大野慶人ほか
延べ参加者11,000人
他機関との連携
■大町市教育委員会と共催し、加藤種男氏のトークイベントを行う。
■千年の森自然学校での展示とイベント開催。
■キッズデイ大町での淺井真至のワークショップ。
■地元のやまびこ祭り、北アルプス三蔵呑み歩きへの参加。
活動の効果
地元に生まれ育った人と、その地を愛し住み着いた人自らが企画を行い、他の地域から人を集められるようなイベントを行った。流木を使って制作された作品が設置された千年の森の川の中州に、キャンプで訪れた中学生たちが自ら橋を作ってくれた。作家の創造性が子どもたちの感性を触発した。海を越えてやってくる「まれびと」としての滞在作家が、新鮮な感性で土地を表現することで、地元の人すら忘れているような土地の記憶を造形化した。
活動の独自性
木崎湖畔で無農薬のお米作りを行う農家の心意気に引かれて集まった仲間たちが、大地とともに生きる「生活における花」としての祭りを作り上げてきた。原始感覚というテーマをもとに、ジャンルを超えた表現者が集い、木崎湖の豊かな自然とその地に暮らす人と出逢うことでしか生まれえない常設作品を制作し、原始感覚の里を形成する。滞在作家のうち4名が地元の方と結婚、定住し、3組に4人の子どもが生まれ、外部と内部を結ぶ場になっている。地元の人で面白いことをやりたい人自らが企画を行い、実現できる場となることで、継続的な祭りづくりを行う。
総括
祭りをテーマに開催したため、作品展示のみを見にくる参加者は若干減少したが、各担当者が自主的に企画を行い広報に努めたことで、イベントの集客は増加した。地元作家の企画したOkiライブでは、たくさんの若者が訪れ、能と地元神楽のコラボイベントでは、地元の方がたくさん訪れるイベントとなった。原始感覚セルフ祭りでは、丸太の神輿を担いだ男たちが火を囲んで回りだすという秘祭の誕生する瞬間が生まれた。今まで、滞在作家が宿舎で行っていた作家のプレゼンテーションをオープニングで行うことで、たくさんの来場者が訪れ、市民が、作家の生の想いや活動に触れる機会となり好評だった。文化庁の事業で始まった2カ月の滞在制作と初の海外作家による小学校全校生徒のワークショップは、子どもたちの好奇心に溢れる集中した時間を生み出した。詩と舞踏の巨匠、吉増剛造と大野慶人のイベントでは、吉増氏の親友で、元慶応大学教授の白馬在住だった井上輝夫氏が8月25日に亡くなり、井上氏に捧げる詩を詠んだ吉増氏の朗読は鬼気迫る迫力を持ち、それに応答する大野氏の舞踏とともに、この地に文化の1ページを刻むような稀有な場を生み出した。