活動の目的
日雇い労働者の町・釜ヶ崎。現在は高齢化し、孤独感や依存症に悩む方が少なくない。生きがいをいかに持つかを考えることは急務である。そのようななか、私たちはほぼ毎日喫茶店を開き、ささやかな表現の場を「釜ヶ崎芸術大学」としてスタート。さまざまな問題を抱える若者や外国人旅行者なども行き来する町で“結び目”になり得る活動を続ける。
活動の内容
4月~9月を前期、10月~3月を後期として開催。前期は、美学・数学・脳と視覚・浪曲・民族芸能・男女と色恋などの多彩な講座。後期は、詩・天文学・美術・音楽・ダンス・合唱、哲学などパフォーマンス要素を含む講座。実施場所は、できるだけ足を運びやすい近隣地域の集会所5カ所程度。その他、近隣の保育園や中高等学校にて、講師と釜ヶ崎芸術大学在校生数人とともに出張講座を開催。すべて合わせて約100コマの講座を実施。なお1月末には、1年間の成果を「釜ヶ崎オ!ペラ2」と題し、西成区民センターにて発表。
実施場所:西成市民館、太子老人憩いの家、禁酒の館、喜望の家、カマンメディアセンター、他
参加作家、参加人数
参加講師: 森村泰昌( 美術家)、西川勝( 看護師・臨床哲学)、桜井進(サイエンスナビゲーター)、尾久土正己(天文学者)、倉田めば(薬物依存回復支援団体「Freedom」代表)、春野恵子(浪曲師)、岩橋由莉(表現教育家)、茂山童司(狂言師)、畑中弄石(書家)、野村誠(作曲家)、他
他機関との連携
大阪市立大学・社会包摂型アートマネジメント・プロフェッショナル育成事業:「アートの活用形?」の一環として、釜ヶ崎芸術大学成果発表会「釜ヶ崎オ!ペラ2」を実施。インドネシアからアーティストを招聘。近隣の市民館や支援機構との連携も継続。
活動の効果
継続して参加している方の自主性が上がってきた。今事業が始まって4年目ということで、初めから参加してくれたみなさんは大学院生になるという意識。また1ステップ進むことができたように実感した。参加者の横のつながりも広がり、自主的なワークショップや展覧会が開催されるようになった。講師のみなさんとの繋がりも深まり、特にパフォーマンス要素の強い講座では、創作意欲の湧きあがる瞬間が続いた。外部のイベントや大会なども招聘され、ステージに立つ機会が増えた。生き生きとしている姿は“表現の原点だ”と多方面から賛辞をいただいている。
活動の独自性
釜ヶ崎に場を開くことから見える風景は多様である。困難な状況を抱えた人、少しずつ回復している人、体の不自由な人など出会いは絶え間ない。このような中で繰り広げられる表現は言葉にすれば取りこぼしてしまうほど、その場の体験以上に語れるものはない。釜ヶ崎芸術大学は、この“体験の場”を創出していると言える。特定のプロフェッショナルではないからこそ、関わる人が多様であり得ると感じている。新鮮な目線とゆるやかな繋がりを土台に、訪れた人たちとともに互いに学び合う場が釜ヶ崎芸術大学である。
総括
2012年よりスタートした釜ヶ崎芸術大学は今年で4年目を迎えた。当初は時期を定めて講座を開いていたが、興味をもってくださる地域の方々の居場所を作る意味合いもあり、通年でゆるやかに講座を開くこととなった。これまでも多彩な講師陣にお越しいただき、知識欲求の高い参加者とスタッフも加わり、互いに学び合う時間をもってきた。継続することにより、さまざまな関係性が生まれ、今ではスピンオフして自由に活動しはじめている講座もある。一方で、釜芸の名前が知られ、参加者同士の繋がりも強くなればなるほど、初めての方が参加しづらくなるのではないかと懸念される。いかに定着させ、風通しのよい状態を保つことができるのか、絶え間ない努力が必要である。講師陣とも、言葉を重ねていきながら、これからの釜ヶ崎芸術大学を考えている。特に成果発表会「釜ヶ崎オ!ペラ2」に向かう日々の中で、インドネシアの楽器ガムランと古典舞踊のアーティストが招聘され、濃厚な時間が繰り広げられた。文化力の高いインドネシアでさえ、新鮮に見える表現があったそうだ。今後も弾けとぶ力と、土地に根を張った表現に期待が膨らむ。
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「天文学」講座。夏の星々を大きな望遠鏡から覗く
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「表現」講座。出会い聞き語る、多様性ある場
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「釜ヶ崎オ!ペラ2」本番。音楽、詩、ダンスなど