アートによる地域振興助成成果報告アーカイブ

五斗長ウォーキングミュージアム事業

五斗長・常隆寺ウォーキングツアー実行委員会

実施期間
2016年3月12日~3月19日

活動の目的

五斗長ウォーキングミュージアム(以下GWM)は、住民とアーティストが共に信頼し協働して建設する、「館」ではない美術館、「道」あるいはプロセスとしての美術館を目指す。制作および調査活動を通し、周辺地域との交流、地域資源の再定義、誘客コンテンツの創出、情報発信、交流人口の増加を試み、地域の健全な継続と社会課題への取り組みを目的とする。

活動の内容

今年度は、アーティスト4組による新作の公開、既存作品の移設、ハード面でのミュージアムゲートの制作を行うなどGWM自体の充実を図り、ミュージアム範囲を拡大し、一般公開を実現した。加えてソフト面では、事前調査に主眼を置いた五斗長の「歴史・生活・自然」に着目したツアーを実施。ゲスト講師2名を招き、フィールドワーク、ヒアリング、文献による地域リサーチを行った上で、住民自らのもてなしも組み込んだツアーを企画・実施した。地域の歴史に詳しい高齢者、(株)五斗長営農という住民らが共同で経営する農業法人も講師としてツアーに参加した。古道開通には至らなかったが、繰り返し歩き、少しずつ着実に道作りを進めている。
実施場所:淡路島五斗長地域

参加作家、参加人数

笹島裕樹、アートユニット・くうのき(Fuuyanm+日根野太之)、南野佳英、久保拓也が作品を制作、過去作品も移設。オープニングイベントは島内外から80名、「歴史・生活」ツアー(講師:陸奥賢)16名、「自然」ツアー(講師:植木弥生)17名が参加。クラブツーリズムのツアー依頼にて46名参加。通常展示も含め200名以上来場した。

他機関との連携

(株)五斗長営農は常時、垣内遺跡のカフェ「まるごキッチン」はおもてなしで協働。淡路市教育委員会は歴史調査やツアーへの協力、兵庫県ボランタリープラザ、淡路島県民局は資金援助ほか、地元森林関係者などの協力も得つつある。新規にクラブツーリズムとの協働も実現。

活動の効果

新規作品制作、既存作品の移設・メンテナンスやゲートの新設を行いコンテンツおよび範囲の拡充を図り、島内外からの来場者数が増加。現淡路市教育長はオープニングに来賓として参加、五斗長出身でもあり今後さらなる協働の可能性を協議した。「歴史・生活・自然」に着目したツアーも今後の展開の可能性を広げるであろうことなど、現状を判断しGWMを正式公開することも決定。公開方法も確定するなど成果の見える5年目となった。

活動の独自性

野生の森に設置された作品群は、館ではない美術館として、移ろう四季、自然のありようと共にその場の環境に耳を傾け、目を凝らし思考を促す場として機能する。五斗長には稀有な鉄器の遺跡があり、海と川と山の間に、豊かな自然環境のもと営まれてきた農業、支え合う人々の暮らしが脈々と残り、現代社会との整合性を図り未来に向けた営みが続く。今年度のツアーは、これらの全ての要素に着目し、調査を行い実施された。現代社会の諸問題を背景に、歴史を学び伝承し、自然に畏れを抱く私たちが今、思考すべき諸要素が、淡路島の人口180名、58世帯の五斗長集落にはある。世界を立体的に捉え、多角的な視野を構築するために学び得る場として五斗長は独自の可能性を持つ。

総括

今年度は、新旧作品の制作設置、ミュージアムゲートの新設といったGWM自体の充実を図れたことはもちろん、ツアーを通じ、五斗長とその周辺地域との歴史的関わりを捉え直し、豊かな自然に触れ体感し、楽しみながら学ぶ機会を得ることで、五斗長の持つ可能性を全般的に活かす道筋を見いだした。
来年度は、継続してヒアリング調査および文献調査を行い、最終的には冊子化するなど目に見える形で残し伝えるための活動を本格的に実施する。日本が大きく転換した第二次世界大戦の前後を具体的に語れる世代が少なくなる今、この活動を今実現することは地域にとっても切実な課題と考える。
また、今年度のようにツアーの実施を行うことで、島内外の多くの方に五斗長そのものの魅力を伝達し、交流人口増加を目指すだけでなく、社会的課題に対する問いかけをも提示していきたい。GWMの正式公開も決定したため、引き続き地域住民と余所者視点の協働で、より多くの連携先との試行錯誤を続けていきたいと願う。

  • オープニングイベントの様子

  • 五斗長の「歴史」に着目したツアーの様子

  • 五斗長の「自然」に着目したツアーの様子