アートによる地域振興助成成果報告アーカイブ

奈良・町家の芸術祭 はならぁと 2015

奈良・町家の芸術祭HANARART実行委員会

実施期間
2015年4月~2016年3月

活動の目的

現代芸術を入口とした町家の利活用と地域価値の維持・向上のサイクルを作り、町家が家主と借り手の良好な関係性のもと有効活用されることで、町並みはもちろん、文化や営みが守られ、引き継がれていく状況を育むことを目的とする。

活動の内容

各開催地域ごとにキュレーターと一般作家を公募、10~11月にかけて開催した芸術祭に84組が出展した。展示会場のマッチングをはじめ、制作サポートを地元まちづくり団体が中心となって行った。また、会場60件のうち20件は現在使用されていない空き町家であったため、出展作家・地元住民・学生・ボランティアチームによる定期的な清掃活動を行った。会期中、町家で店舗経営を目指す経営者のチャレンジ出店を誘致、地元まちづくり団体主催による空き町家見学ツアーを企画した。
メインイベントとなる芸術祭の前には、より地元住民に密着した長期持続的アートプロジェクト「はならぁと アラウンド」を初開催し、地元小学校でのワークショップ等を実験的に実施した。
実施場所: 奈良県内各地域(宇陀松山エリア、八木札の辻エリア、今井町エリア、五條新町エリア、生駒宝山寺参道エリア)
芸術祭:2015年10月10日~18日、10月24日~11月3日

参加作家、参加人数

電子音楽家として活躍する奈良出身の魚住勇太氏、同じく奈良出身の現代芸術家加藤巧氏をはじめ4名がキュレーターを担当。また、一般出展作家として奈良を拠点に活躍する作家が中心となり出展。
芸術祭の総来場者人数は56,300人、半数が県外からの来場であった。「はならぁと アラウンド」の参加人数は82人となり、地元学生・地元住民の参加が多数となった。

他機関との連携

共催の奈良県はじめ、開催地の市町・観光協会・教育委員会・各新聞社・地元ラジオ局の後援、JR・近鉄交通・バス会社等の協力、奈良大学社会調査学部のゼミ受け入れなど、さまざまな連携をして事業を実施した。

活動の効果

会場となった空き町家のうち3軒は会期終了後、シェアハウス・アーティストの活動拠点・家族連れの移住先として利活用が決定した。また、芸術祭の会期中には、クーポン協力店の8割以上が通常より売り上げが3倍程度上がり、地元宿泊施設も満室になる等、大きな経済効果を生んだ。
「はならぁと アラウンド」では、地元小学校との連携や地元住民と作家の交流を積極的に創出し、地元まちづくり団体から継続を望む声を多く受けた。

活動の独自性

2012年度よりキュレーター制を導入。「はならぁと」におけるキュレーターは、独自のリサーチによって地域の特性を読み取り、また、清掃活動などをきっかけに地元住民と交流する中で、展覧会コンセプトを企画し、出展作家を招致する。キュレーターが一つの会場を統括することで、よりサイトスペシフィックで硬度のある展覧会を実現している。
また、それぞれ全く別のまちづくり団体が実行委員会を組織し、奈良全体の振興を考えながらボトムアップ手法にて取り組んでいる。共催となる奈良県では地域デザイン推進課(元土木課)が「はならぁと」を担当し、まちづくりの一環として活動を支援している。

総括

5年目を終えた「奈良・町家の芸術祭 はならぁと」では、これまでに32軒の空き町家が改修・利活用され、魅力的な店舗やアートスペースが増えた。それにより、店舗オーナーと地元まちづくり団体がマルシェなどの独自イベントを企画するなどの波及効果が生まれ、地元住民が住んでいてより楽しい町が育まれている。今年度もすでに3軒の利活用が決定し、大きな成果となっている。キュレーターの独自のアプローチによる地域価値の再編集されたものが、地元住民をはじめ多くの来場者に提示されていることが成功の要因であると言える。また、今年度は初めて地元住民に密着した長期持続型アートプロジェクトを実施することで、大規模な芸術祭ではすくいきれていなかった地元住民への細かなアプローチを実現することができた。
次の5年間に向けて、今後「はならぁと」を開催したことのない地域への積極的な開催誘致と、まちの状況に合わせた長期的視点でのアートプログラムの提案を行う。(2016年度の開催エリアの半数が初開催エリアとなる予定。)また、自主事業を中心に複数の財源を確保することでより継続的な組織運営の実現を目指す。

  • 今井町エリア/左から村上慧、加藤巧、青田真也

  • 宇陀松山エリア/アムリタ「から、へ、流れる」

  • はならぁとアラウンド まち歩きの様子