活動の目的
負の地域資源である空き家や廃墟を多く抱える尾道山手地域にアーティストを招聘し、創作活動を展開。その現場を起点に国内外との交流を図り、人材育成の機会を作ることによって、この土地固有の未来を創造する新たなヴィジョンを手に入れることを目的としている。
活動の内容
1.地域協働を通じた人材育成:専門家(美術評論家、作家、大工、陶芸家など)による実践と理論によるワークショップ・勉強会を開催。(ワークショップ19回、光明寺會舘学校10回開催)
2.国内外作家招聘:通年で3人の作家(シュシ・スライマン、岩間賢、横谷奈歩)を招聘し、尾道山手地区のサイト(空き家・廃墟)での創作活動を継続的に支援。
3.地域拠点整備:空き家や周辺路地を環境整備し、山手一帯を美術館と見立てたOPEN AIR MUSEUMをツアー形式でオープン。(光明寺會舘、西土堂の廃墟・長屋、みはらし亭、本の家ほか)
4.アーカイブ形成と発信:AIR zine編集室による地域リサーチを日常的に行い、データを蓄積。その内容を編集し、独自の印刷物を刊行。
実施場所:光明寺會舘、尾道旧市街斜面地
参加作家、参加人数
参加作家: シュシ・スライマン、岩間賢、横谷奈歩、ONLY CONNECT(もうひとり、稲川豊、杉井隼人、LEE Hochoul、白水耶麻子、村上友重、安田暁)AIR zine編集室 ほか。
参加人数: 各会場来場者数総数 延べ700人、作家制作補助学生アシスタント20人、その他地域住民の方々)
他機関との連携
協働・交流: NPO法人尾道空き家再生プロジェクト、尾道市立大学、愛知県立芸術大学、実践女子大学、広島女学院大学、総合地球環境学研究所
活動の効果
場の可能性の再発見:創作の継続により荒廃したエリアの環境が大きく変化し、崩壊の進んだ家屋からさまざまな要素を発掘し作品制作へと繋ぐことができた。
交流の発展:尾道市立大学をはじめ他地域の大学(愛知県立芸術大学等)や団体(総合地球環境学研究所など)との協働により今後に繋がるネットワークを構築することができた。
地域の記憶の発掘:風化する家の記憶を発掘し、聞き取りを通じて地域の人々の証言を記録。その成果を新聞等で発表。
活動の独自性
中長期的企画の実施:単年度のイベントではなく、中長期的視点で国内外アーティストを支援し、丁寧に地域と結ぶことによって優れた創作が実現化することを重視している。
独自ネットワークの活用:エリア在住アーティストの主導で運営を行っているので、これまで蓄積してきた人的ネットワークの活用が可能である。NPOや大学、地域の専門家や職人のほか若手作家、学生や地域住人もプロジェクトのコラボレーターとして関わっている。
活動に対する批評性:現場とは違った角度から活動を捉え、吟味するため、通年で読書会やゲストを招いてのレクチャー等の学びの機会を生み出している。Zine等のマイクロメディアでの発信も重視している。
総括
これまでの活動の継続を踏まえ、本年度はさらにプロジェクトを前進させることができた。オープンエアーミュージアム各所を整備していく過程で、多くの専門家やコラボレーターとの協働作業を行うことができた。さまざまな知恵の集合によって創作が進展すると同時に、ワークショップ等を通じて人材育成の機会を数多く生み出すことができた。ワークショップやツアーでは今後の交流に繋がる他地域の大学や専門家たちとの交流も活発に行われ、有意義であった。また、AIRを契機に尾道在住アーティストがマレーシアで展示を行う等、海外との交流も具体的にスタートした。国籍・地域・領域を超えた交流現場が、負の地域資源ともいえる空洞化したエリアで確実に生まれ始めている。
また、現場と異なる批評的スタンスで活動するAIR zine編集室ではフィールドワークやレクチャーなどを展開しながら、放置していたら風化してしまう事象を記録・考察し、ZINEを発行することができた。招聘作家の現場を編集室の視点で巡るツアーも充実した。
今後は長期にわたる各プロジェクトのドキュメンテーションの編集作業も開始すると同時に、2年後を目途に3アーティストの活動の着地点を具体化していく必要がある。