活動の目的
障害者の創作をはじめ、社会の「周縁」にいると言われる人たちの表現などを展示し、世の中に多様性を確保することを目指す。こうした活動を通じ、さまざまな生き方や価値観が肯定され、誰もがわずかでも生きやすい社会をつくることに貢献することが本事業の目的である。
活動の内容
4/30~7/20にかけて、いわゆる「精神世界」にまつわる創作物を展示する『スピリチュアルからこんにちは』展を開催。あの世、魂、UFOなど科学的世界観とは異なる世界観に立脚してはいるが、宗教的かつ普遍的な問題を提起していると考えられるさまざまな表現の展示を通じ、生/死について考える契機を提供することを目指した。また、有識者を招いたトークイベントも開催。動かすことができない作品については、実物が設置されている場所にツアーを組んで出かけ、創作者に直接話を伺うなどした。なお、年度を通じて、当館の企画展のための作品調査・取材も行った。
実施場所:鞆の津ミュージアム、鞆こども園
参加作家、参加人数
【出展作家】 宇川直宏/占い天界/土屋正彦/なお丸/青樹亜依/伊豆極楽苑/羽山正二/創作仮面館/宇根正浩/藤井柊輔/橘高博枝/景山八郎/Rammellzee(以上、13名)
【トークイベント登壇者】都築響一
【作品探訪ツアー】稲村米治さん自宅
【入場者数】1,582名(有料=1,182名、無料=400名)
他機関との連携
企画展関連トークイベントを、当館裏手にある「鞆こども園」で開催。また「作品探訪ツアー」として、稲村米治さん制作の「昆虫千手観音」を拝見するために、群馬県にある板倉町公民館と連携をとって、集団鑑賞を行ったうえで、稲村さん宅で直接お話を伺った。
活動の効果
周縁的な価値観について広く考える機会を創出できたのではないか。また、前回までの企画展と同様、日本各地から来館された方が多く見られたり、新聞や雑誌など各種メディアでも取り上げていただくなど、当館の考え方が広まるきっかけになった。
活動の独自性
当館では、一般的には排除されがちな社会的に周縁化されている人たちが生み出した表現を展示している。そうした活動は、常識的な理解の枠組みから外れた存在であるために、無視されがちであり、社会的に広く知られる機会はあまりない。当館は、こうした活動に光を当てることで、対話がないような人同士の間接的な「対話」を作品鑑賞という形式を通して生み出す場になっているのではないか。こうした機会創出によって、さまざまな価値観をもつ人間同士が互いに肯定し合えるような社会にむけて貢献できるのではないかと考えている。
総括
本事業では、「精神世界」という一般的には見て見ぬふりをされがちな対象をテーマとした企画展を行ったが、幅広い客層の来館者から「精神の自由を感じた」など肯定的な意見を多数頂くことができた。それはおそらく、「精神世界」から生み出される表現というのは「なぜ人は生きるのか」といった宗教的な問題意識とつながっているため、鑑賞者にとっても他人ごとではないものとして展示作品が受容されたからにほかならないであろう。そのように普遍的な問題と接続することによって、一般的には排除されがち、かつ社会的に周縁化されている人たちが生み出す表現に対する意識を、わずかでもよい方向に更新することができたとすれば、多様な生き方や考え方を互いに肯定しようという本事業の目的は達せられたことになる。また、前回までの企画展と同様、日本各地から来館された方が多く見られたり、新聞や雑誌など各種メディアでも取り上げていただいたことから考えれば、作品鑑賞という間接的な形式を通してではあるが、普段、あまり関わりがないような人間同士の「対話」を生み出すことができたと言えるのかもしれない。