アートによる地域振興助成成果報告アーカイブ

WATARASE Art Project 2014 「ARTは社会に生まれ、社会に消えていく」

WATARASE Art Project

実施期間
2014年10月25日~11月17日

活動の目的

国際的な視野をもって地域の固有の問題を検証し、アートを用いて内在される価値を高めていくことを目的とする。また、地域のアイデンティティーである「足尾銅山」を、今日における社会的課題に照らし合わせ、近代史への批評として大都市に依存しない持続可能な地域像を模索する。

活動の内容

国内外から若手アーティストを招きアーティスト・イン・レジデンスを実施し、成果報告展を地域の空き家・廃校などを用いたアートフェスティバル方式(展覧会名:あしお碧水祭)で行った。また地域に在住するアーティストの作品群も同様に発表し、多様な視点からの現代美術作品を一般に向けて公開した。
アーティスト・イン・レジデンスと並行し、コミュニティープログラムとして、地域の小・中学生、高齢者らが独自に行う活動をプロデュースし、一過性的なアートフェスティバルとは異なる、クラフトなどのものづくり、カフェなどの食といった持続的展開が可能なプログラムを行った。
その他、開催地の市との多岐にわたる連携事業を実施。
実施場所:栃木県日光市足尾町

参加作家、参加人数

参加作家:23組/参加人数:延べ約1,500名
展覧会は小規模であったが、最終日に行ったコンサートイベントでは、他の地域活動団体などを出演者として積極的に招き、小規模な地域の体育館に200名以上が詰め掛け盛況であった。

他機関との連携

開催地の市および教育委員会と連携事業を行ったほか、福祉事業者(NPO、社会福祉協議会など複数)や他の市民活動団体と連携を図った。

活動の効果

滞在制作を行ったアーティストには、より強く地域住民との関係を結ぶよう求めたとともに、地域人材を積極的に招き入れたことで、外部からの人材のみに依存することなく、地域の内部で循環・消費する表現活動の重要性への認識が強まったと感じられる。これは内向きな変化と捉えられがちだが、本来あった地域の活力を取り戻す大きな意識改革であったと感じられる。特に、小・中学生など子どもたちが地域社会へ参画する意識や自主性が非常に高まった。

活動の独自性

地域特性としての「足尾銅山」を、これまで『場』として有効活用することが重要視されていたが、2014年度の活動は、近代史の検証や批評など社会的側面が強い展開となった。これは、特に各アーティストの活動成果としての作品に顕著にあらわれ、作品の持つ社会性の強さが活動としての独自性であった。また、過去の活動から引き続き、地域での表現活動を行うアーティストを発掘するという特異な基準で参加アーティストを選定しているため、独自性が高いと考えられる。2014年度は、特に、アカデミックな意味合いで研究活動などを並行して行うアーティストを積極的に受け入れた。

総括

アーティスト・イン・レジデンスの実施や展覧会の実施、またコミュニティーとの協働や地元行政との連携、福祉などさまざまな活動団体との連携事業により、「ART」という言葉では括りきれないほど活動が多岐にわたった。これは2014年度だけでなく、過去からの活動継続の大きな成果であると考えられる。
しかし相対的に「ART」として目に見える部分が薄まったことで、地域の外部への発信力も同時に弱まりつつあるように感じられるとともに、多岐にわたる活動を維持・運営していくために、人材の不足が以前よりも増して感じられるようになってしまった。
地域の意識が高まり、それを受けアートプロジェクトも共にブラッシュアップさせていくためには、いま一度、事業全体を見直し、運営基盤の早急な補強を行うことが必要となってきた。法人格の取得といった具体的な基盤形成のほか、より独自性のある活動展開の模索や、地域の企業との連携を強化する必要があると考えている。