アートによる地域振興助成成果報告アーカイブ

ART&FOOD LABO準備事業

アートNPOヒミング

実施期間
2014年7月~2015年3月

活動の目的

次年度展開予定の【ART&FOOD LABO】の準備事業として、氷見という地域の食文化について見つめなおし、学びを深める場づくりを試みる。暮らしにひっそりと根付く地域らしさ、自分の地域の食文化を考えるきっかけにし、土地への知識や愛着を深めていく。また、「食」という、地域住民同士で教え合い、新たなつながりが生まれるような交流の場の創出にもつなげていきたい。

活動の内容

食とアートをテーマに作品を展開する作家EAT&ART TARO氏を招聘し、『食通ーFood correspondenceー』を行った。食通は、異なる地域・互いに会ったことのない人たちと、文通のように食事のやりとりを行う。「夕方に送れば、次の日にはほぼ日本中どこでも届く」という日本の流通を活かし、「次の日、温めて食べてね」と、まるで冷蔵庫の表と裏が日本中とつながっているような不思議なコミュニケーション感覚を味わいながら、地域の食文化について学ぶプロジェクトである。
実施場所:富山県氷見市、香川県高松市
実施期間:2014年7月~2015年3月、計7回

参加作家、参加人数

数回にわたってEAT&ART TARO氏が参加。月に1回程度、計7回のワークショップを行い、延べ118名が参加した。ワークショップには、主婦の方々から野菜ソムリエの資格を持つ方、市役所員や氷見市に移住してきた方々といったさまざまな人が参加したことで、地元の食について多角的に考え、学び合う場となった。

他機関との連携

海のそばという類似性を持ち、一方で富山湾と瀬戸内海という異なりを持つ香川県高松市在住の方々と連携した。高松側では今回を機に、歴史的建造物管理者から栄養士の方まで、幅広い視点から食文化に関心を寄せる「Seto Kitchen」というユニットが誕生した。

活動の効果

回数を重ねるほど「次は何を送ろうかな」「この季節はこれを食べてほしい」と相手の存在を想い、楽しみながら食文化の違いについて学んでいく契機となった。いわゆる「名物」とは意識していなかった家庭料理にも、その土地らしさが含まれていることを参加者が再認識することにつながった。また月1回、同じ食卓を囲む機会が生まれたことにより、「同じ釡の飯を食う」参加者同士、またスタッフとの交歓・交流の場づくりにもつながった。

活動の独自性

・ 具体的な他者がいて、考える・作る・食べる(比較する)ということを通して、自分が暮らす地域について学ぶ。
・ 会ったことのない人との不思議なコミュニケーションを誘発する。互いの地域を知ってもらうことで、それぞれが持つ面白さや魅力について気づき、アドバイスし合える関係性を築くことにつながった。
・「 送る」という行為を通して、いわゆる「名物料理」ではなく、普段の暮らしで何気なく作っている「あたり前のおかず」を熟考し、これまで無意識のなかに埋もれていた氷見という地域性を再認識する。
また、双方の味付けの「甘さ」「塩加減」「煮る」「焼く」「揚げる」という当たり前の違いに土地の歴史背景があることを意識化する。

総括

今年度は【ART&FOOD LABO】準備事業として、アートの視点を織り交ぜながら、土地ならではの食文化にアプローチしていった。アーティストが介入することで、地域にある「ふつう」を外の視点から見つめ、ひもといていくしかけを試みた。違う土地かつ会ったことのない相手とのやりとりを通じて、普段何気なく食べている食の地域性について発見・再発見する機会となった。また今回、お互いの反応や感想を知るための手がかりとして、スタート時から氷見と高松でブログの記録を行った。文章として『食通』の様子が蓄積されていくうち、文化の違いや共通点、食の持つ歴史背景などを再認識し、それぞれの土地が持つ個性の輪郭や、食文化の厚みがより際立ちはじめた。同じ料理について送り手・受け手の考えをパラレルに並べるドキュメントブックの制作を行い、氷見の食文化における一つのアーカイブを作ることができた。 事業終盤に初めて対面を果たしたときには、過去に送り合った料理について談笑し、自慢し、まるで旧友に会ったような感覚を持ったという人もみられた。今後【ART&FOODLABO】では、単に食文化を学ぶだけではなく、食を通じて得る喜びや面白さ、土地への愛着の醸成にもつなげていける場づくりをしていきたい。