アートによる地域振興助成成果報告アーカイブ

徳之島アートプロジェクト2014

徳之島アートプロジェクト実行委員会

実施期間
2014年7月26日~8月31日

活動の目的

世界自然遺産への登録が期待されている豊かな自然に恵まれた鹿児島県の徳之島で、アートを通して地域文化や島の環境をあらためて見直すことや、再発見を促すことを目的とする。

活動の内容

開催に先立ち、建築学科の学生による集落の集落実測調査が実施され、集落立体模型などを制作。会期直前には集落住民へのワークショップを行い、住民の記憶を作品へと反映させた。また島内の小学校や高校ではアーティストによる土を使った作品制作ワークショップを行った。
会期1週間ほど前にはほぼ全ての参加作家が島に入り、住民との対話や自然と向き合いながら作品制作を行った。会期中は、島内の公民館や資料館、牛小屋、路地、浜辺、休耕地など様々な既存の空間を使い、集落模型や住民のポートレート作品、インスタレーション作品など、地域住民の協力を得ながら作品を展示した。
また、集落公民館内では現代演劇の公演なども行われた。また、すべての展示の入場料を無料にすることで多くの島民が鑑賞する機会をつくった。
実施場所:鹿児島県大島郡伊仙町、徳之島町、天城町

参加作家、参加人数

アートプロジェクト代表である写真家の宮本隆司の他、建築家の古谷誠章と早稲田大学古谷研究室の学生たち、アーティストの長澤伸穂、高橋永二郎、池崎拓也、占部史人、テキスタイルデザイナーの安東陽子、シアター・カンパニーのARICAが参加。ボランティアには島内だけでなく島外からも参加者がいた。展示期間中は延べ4,000人近くの人が島内外から各会場に訪れた。

他機関との連携

開催地となった伊仙町、徳之島町、天城町、NPO法人徳之島虹の会、船会社、バス会社、宿泊業者、メディア関係機関などと連携し事業を実施した。

活動の効果

アートが徳之島住民の意識を活性化し、島の自然環境を見直す場を作り、奄美群島固有の文化を再認識してもらうことを目標とし、島全域に点在する集落の7カ所に展示場を設置したため、島民も行ったことのない地域を住民が互いに訪問し交流する場が出現した。島外からの観光客も観光・レジャーだけが目的ではなく、アートを手掛かりに徳之島の自然と文化を体験しようとする人々が見受けられた。

活動の独自性

徳之島の浜辺にウミガメが産卵のため上陸していると、多くの島民が知ったのは最近のことである。ウミガメは広大な海洋を回遊し、生まれた浜に帰って産卵する。これを母浜回帰という。ウミガメの習性を見習って、原点に戻って基本を確認する、生き方を根本から見直すという意味で、アートプロジェクトのテーマを母浜回帰とした。人口2万7千人の徳之島には美術館、ギャラリーなどの展示施設は皆無である。そこで、既存の集落公民館や資料館、集会場周辺の自然、海辺の砂浜、牛小屋などを展示施設として取り込み活用した。旧分校教室の伝統入れ墨・ハジチ文様の布展示、闘牛牛を間近に見るための牛小屋など、島独自の文化に触発されて制作した作品が多数展示された。

総括

近年の日本列島各地に於けるアートプロジェクトの活動は目覚ましいものがある。だが、奄美群島などの離島まではその効果が及ばず取り残されている。徳之島アートプロジェクトは代表、宮本の両親が徳之島出身という縁があって始まったが、アートとの出合いが少ないと思われる南西諸島の遠隔地にこそ未知の可能性が埋没しているとの考えから企画実行された。テーマを母浜回帰と設定し、徳之島の自然環境や固有の動植物、独自の文化に触れて再認識する機会となるよう、各展示会場で参加作家が独創的な作品を制作した。徳之島三町の行政と多くの島民の協力を得ることでプロジェクト運営が可能となったが、現実には経済的支援と行政担当者の人的支援は皆無であり、遠隔地のため高額の交通費により島外からの観客は少なかった。さらに島内交通インフラの未整備による移動手段確保問題、入場無料だが展示管理運営問題、宿泊施設不足など多くの問題が露呈した。しかし問題があるにせよ、多くの島民がアートに関心を持ち、様々な出会いの場になった徳之島に於ける最初のアートプロジェクトが実現できたことは画期的であった。今後も、可能であれば徳之島アートプロジェクトを持続していきたい。